狼と香辛料 XVI
Amazon.co.jp:狼と香辛料〈16〉太陽の金貨〈下〉 (電撃文庫)
読もう読もうと思いながらも年度末の忙しさの中、なかなかじっくりと腰を据えて読む機会を得られずにいた狼本編最終巻。いつの間にか発売から2か月経とうとしていますが、やっと読了いたしました。画像からもどことなくあちこち持ち運んだ形跡がうかがえます。
あとがきを見る限り小話として続刊は出るみたいですが、本筋はこれがラストです。途中、作者様が「最後はハッピーエンド」と公言されていたのもあり、一ファンとして終わらせ方に関してはそこまで心配しておりませんでした。……だからこそ読むのが遅れちゃったのかもしれませんけどね;;
(以下、ネタバレ注意)
まず作品が完結している、そのこと自体がすごいことだと思います。プログラマと作家では性質は全く異なりましょうが、少なくともプログラマ的な観点ではプロジェクトを終わらせるのには相当な労力が必要となります。だから、本当にすげぇと思います。
しかし一方で長い期間続くシリーズとしてはある程度の不完全燃焼がつきものです。『狼と香辛料』でも個人的には、
- 月を狩る熊とは何だったのか
- エーブとは何だったのか
- コル坊とは何だったのか
特にこの3点が腑に落ちない感じがありました。次にそれぞれに触れてみたいと思います。
月を狩る熊とは何だったのか
一点目は、実はツッコむこと自体が無粋なのかもしれません。いわゆる「読者のご想像にお任せします」といったところなのでしょうか。実際、「月を狩る熊」という単語自体が話の流れで必要だったからこそ出てきた感じもありましたからね。
ホロのように人の姿を借りた異形の存在は、熊こそいませんでしたが、鳥に羊に兎にそれなりに登場しています。中には狼の姿のホロ以上に強大な力を持った熊さんがいて、それが村一つ壊滅させたんだってばよ、ということなのかも。
大事なのはホロに帰る場所がなくなってしまったという事実であって、それが故、シリーズ途中でホロさんは相当凹まれていた様子でした。でも実際にはホロさんは賢狼さんですからそのどん底からどうやって抜け出せばいいのかを知っていたりして、むしろロレンスのほうがヨイツという場所(手段)に拘泥しちゃって悩んじゃったりして、でもホロさんはロレンスがそんな風に自分のことを気遣ってくれるその行為自体が嬉しかったりして、その意識の差で何とな~く両者にすれ違いが生じていたりする。
傍から見ると「あらあらまあまあ(微笑)」的な。旅の動機こそ「北に帰りたい」というホロの願いでしたが、その言葉は馴染みの仲間に会いたいという孤独感から出るものであり、ヨイツという場所はもちろん大事だけど、それ以上に自分の隣に誰かいるかというところに重きをおいていたんじゃないかな、と。
作中でも
「わっちゃあ居場所が欲しい。ヨイツがどうなっておるのかなんて、本当はもう知りたくもないんじゃ。」
と仰っていましたので、まあそんなところなのかな、と考察いたしました。
エーブとは何だったのか
二点目、エーブに関してはSide Colorsで大分凄惨な描写がされているんです。そこまで踏まえて考えれば、ロレンスの人生上に強烈なインパクトを与える商人として君臨したサブヒロインと取ることもできます。ホロとロレンス的には散々だったけどめちゃ良い人なのよ、エーブさん。実際、本編ではいい感じに和解もしたし。
ただ、少なくとも自分の周りではエーブに関する良い話を聞きません。ゲーム『海を渡る風』の原作出向ヒロインとして、ノーラとエーブが出てくるんですね。ノーラは貧乳教補正 + レナ(ひぐらし)やユズハ(うたわれ)補正がかかって自分としてはウハウハだったのですが、エーブに関しては「うわ、エーブとか誰得だよ」とか素でツッコんでしまいました。我ながらシビアな評価だと思います。
しかもアニメ(原作5巻相当)だけじゃ単なる悪役、流石にこれはエーブが可哀そうかもしれません。
コル坊とは何だったのか
最後、コル坊に関して。15巻で最後あんなこんなだから、この後コル坊どうなる!?とドキドキしながら16巻を読んでみたら結局コル出てこなかったー、みたいな。いや、ちゃんと生きて元気にされてはいるみたいですが。
コルは文倉さん独特の雰囲気の絵が特にマッチするキャラで、童心残る言動が微笑ましかったです。可愛いは正義!じゃないですが、実はそれだけで存在意義があるんだと思います。ほら、男の娘って流行ってるじゃないですか。え、関係ない?
支倉さんの文章の自分が受ける印象としてはやはり、お金が絡むパートでの読みやすさが半端ないと思います。3巻の黄鉄鉱の売買シーンとかヤバかったです。今回も終盤の大どんでん返しのカラクリの辺りはアドレナリン出まくりでした。
作者様におかれましては、5年間のシリーズ執筆、お疲れ様でした。一読者として、大変楽しませていただきました。